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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)125号 判決 1999年3月29日

イタリア国

55100・ルツカ、ヴイア・ペル・ムグナノ(番地なし)

原告

ファビオ・ペリニ・ソシエタ・ペル・アチオー二

代表者

ジュセペ アントニーニ

訴訟代理人弁理士

八木田茂

浜野孝雄

森田哲二

平井輝一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

播博

城戸博兒

田中弘満

小林和男

主文

特許庁が、平成7年審判第21839号事件について、平成8年12月20日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1989年2月7日にイタリア国でした特許出願に基づく優先権を主張して、平成2年2月5日、名称を「ウエブ状材料に横方向の孔線を形成する孔明け装置」とする発明(以下「本願特許発明」という。)につき、特許出願をした(特願平2-24587号)が、平成7年6月26日に拒絶査定を受けたので、同年10月16日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成7年審判第21839号事件として審理した上、平成8年12月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成9年1月29日、原告に送達された。

2  本願特許発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨

回転するローラ(17)を有し、このローラに沿って、孔明けすべきウエブ(C)が駆動され、前記ローラ(17)によって、前記ローラ(17)の回転軸線に平行に多くの周刃(17E)が支持され、可動ユニット(11)が前記ローラ(17)に接近して配置され、傾斜した刃手段が前記ユニット(11)によって前記回転ローラ(17)の前記刃(17E)と共働するように支持され、前記傾斜した刃手段はそれぞれ真直ぐな切刃を有する多くの相隣る刃セグメント(33)からなり、前記可動ユニット(11)上にはそれぞれ刃セグメント(33)を支持する多くの支持ブロック(25)が設けられた、トイレットペーパーなどのロールを製造する転換機械にウエブ状材料を送る際に、ウエブ状材料に横方向の孔線を形成する孔明け装置において、各ブロック(25)がらせん状受け面(25A)を有し、各刃セグメント(33)は前記らせん状受け面と特別の形状の棒(34)との間に挟持され、前記刃セグメント(33)は受け面(25A)と棒(34)との間に刃セグメント(33)の真直ぐな切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されることを特徴とする孔明け装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、実公昭57-3760号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)並びに実公昭50-2629号公報(以下「引用例2」という。)及び特開昭49-127290号公報(以下「引用例3」という。)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1~3の各記載事項の認定、本願発明と引用例発明との対比の一部(審決書5頁19行~6頁7行)、相違点の認定、相違点に関する判断は、いずれも認める。

審決は、引用例発明の技術内容の認定を誤った結果、本願発明との一致点を誤認し(取消事由1)、本願発明の有する顕著な作用効果を看過して(取消事由2)、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  引用例発明の誤認による一致点の誤認(取消事由1)

審決が、引用例発明について、「引用例1のものにおける固定刃架台の溝は、らせん状受け面を形成しているといえ、各刃セグメントはらせん状受け面と特別の形状の棒との間に挟持されているといえる。・・・固定刃はロール母線に対し傾いた或る角度を持って並んでおり、その刃先が全体として回転ロールの表面から等距離にあるのであるから、その切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されているといえる。」(審決書6頁12~20行)と認定したことは誤りである。

すなわち、引用例発明のミシン目打込み装置は、複数の固定刃5を、回転刃1に対しねじれたような関係に、かつ、その刃先が全体として回転ロール2の表面に対しほぼ等距離になるように配置しているものであり、これは、隣接する固定刃5の角度を回転ロール2の表面形状に沿って少しずつ変えて、その刃先が擬似的に、つまり、折れ線状にらせん状の軌跡を描くように固定刃5を配置していることを意味する。

また、引用例発明の固定刃架台6は、単に、水平方向及び垂直方向にわずかに傾斜した溝6bを備えているだけで、らせん状の受け面は備えておらず、固定刃押え7も、らせん状の受け面に対応する特別な形状を備えていないから、固定刃5が固定刃押え7に挟まれてらせん状に曲げられることはない。

このことは、引用例1に、固定刃の刃先が回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿ってらせん状に曲げられた形状となることの記載及び示唆がないこと、固定刃架台6の溝6bの下面が湾曲形状の受け面を持つことの示唆がないこと、引用例1の第3図ではこの溝6bが湾曲形状に描かれていないこと、固定刃架台6を複数個、段違いに、かつ、各架台6の溝6bが一本の連続した溝になるように配置したときを示す引用例1の第2図でも、固定刃5の刃先は紙面前方を向いているにもかかわらず、隣接する溝6b及び固定刃5は完全な直線で描かれていること、などからも明らかである。

しかも、引用例発明では、固定刃5と回転ロール2の接線との間の角度βが非常に大きいので、この固定刃5を湾曲させると、その刃先が回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿わなくなることからみても、固定刃の刃先は湾曲されていないといえる。これに対し、本願発明では、刃セグメント33と刃ローラ17の接線との間の角度αが非常に小さいので、刃セグメント33の刃先が紙面下方を向いて紙面前方に曲げられていても、本願明細書の第3図では、刃セグメント33の刃先が曲がって描かれるものではない。

被告は、特公昭51-358号公報(乙第1号証、以下「本件周知例」という。)が示すように、固定刃の刃先が、回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿ってらせん状に曲げられていることは、連続したミシン目を形成するための当然の位置関係であると主張するが、本件周知例には、単一の固定刃について記載されているだけであり、複数の固定刃(刃セグメント)を用いる場合に生じる問題点すら見い出すことができず、当然、これを解決するように構成した本願発明の構成が開示されているということはできない。

したがって、審決が、本願発明と引用例発明との対比において、「各ブロックがらせん状受け面を有し、各刃セグメントは前記らせん状受け面と特別の形状の棒との間に挟持され、前記刃セグメントは受け面と棒との間に刃セグメントの真直ぐな切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されることを特徴とする」(審決書7頁14~19行)点で一致すると認定したことも誤りである。

2  本願発明の作用効果の看過(取消事由2)

本願発明は、各刃セグメントを曲げることにより、刃セグメントの刃先が、回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿った完全ならせん状になるため、刃手段を構成する刃セグメント33の全ての部分をローラ17の表面から等距離に位置させ、刃セグメント33全体を均等に使うことができ、その結果、単一の刃を曲げて作られていた従来の刃手段と同等の孔明け作用を持ちながら、製造が安価で、かつ、部分的な損傷には部分的な交換で対応できるという特有の効果を奏するものである。

これに対し、引用例発明は、前記のように、直線状の複数の固定刃を、その刃先が、回転刃の刃先の描く回転円筒面に擬似的に沿うように傾斜させて配置することにより、各固定刃の刃先は直線のままであるが、並べて配置された複数の固定刃の刃先が全体として、折れ線状に回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿って曲げられた状態になるため、各固定刃5は常に同じ部分で回転刃1に強く当たり、その部分にかかる負担が他の部分に比べて非常に大きぐなり、固定刃5の寿命が短くなってしまい、固定刃5を頻繁に交換しなければならなくなるという問題が生じるものであるから、本願発明の上記の効果を奏し得ないものである。

そうすると、審決が、本願発明の顕著な作用効果を看過して、その進歩性を否定したことは誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例発明のミシン目打込み装置では、回転ロール2の回転軸線に平行に回転刃1が設けられ、固定刃5が、対置されている回転ロール2の母線に対し傾斜し、その刃先が全体として回転ロール2の表面からほぼ等距離にあるねじれたような関係に配置され、回転刃1が、固定刃5の片端から他端へ順次当たりつつ移行するものと認められる。

このように回転刃1の当たりが固定刃5の片端から他端へ順次連続して移行するためには、回転刃1に対して傾斜した固定刃5の刃先が、回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿っていることを要し、回転刃の刃先は回転ロールの表面からわずかに突出していることから、固定刃の刃先全体が回転ロールから正確に一定距離、すなわち、等距離に離れて回転刃と接触していることを要することになる。したがって、固定刃の刃先の「ねじれたような関係」とは、固定刃の刃先が、回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿ってらせん状に曲げられた形状となることを意味する。

また、引用例発明の固定刃架台6に設けられた傾斜溝6bは、水平方向及び垂直方向にわずかに傾斜しており、固定刃5は、傾斜溝6b内に載置され固定刃押え7を介して六角ボルトにより固定され、かつ、複数の傾斜溝6bが一本の連続した溝となるように配置され、固定刃の刃先がらせん状にねじれた関係に配置されていることから、総合的、合理的に判断すれば、固定刃架台6の固定刃が載置される傾斜溝6bの受け面は、固定刃の刃先をらせん状にねじれたような関係に配置させる形状となっているものと考えられ、同様に、固定刃押え7も固定刃の刃先をらせん状にねじれたような関係に配置させる形状となっているものと考えられる。

このように回転刃の刃先が描く円筒面に沿って固定刃の刃先をらせん状にすることは、本件周知例(乙第1号証)に示すように、連続したミシン目を形成するための当然の位置関係である。

原告は、本願発明の刃セグメント33と刃ローラ17の接線との間の角度が非常に小さいので、刃セグメント33の刃先が紙面下方を向いて紙面前方に曲げられていても、本願明細書の第3図では、刃セグメント33の刃先が曲がって描かれるものではないのに対して、引用例1の第2図では、固定刃5の刃先が紙面前方を向いているから、引用例発明の構成が審決認定のとおりであれば、固定刃5の刃先が曲がって描かれているべきであると主張するが、本願明細書の第3図も、引用例1の第2図もともに、回転する刃を有する刃ローラ又は回転ロールの側からみた図であることに変わりはなく、図面を描く際の視点において両者の相違はない。しかも、引用例1において、図面は設計図のように正確に描かれているものではなく、本願明細書の第3図においても、刃セグメント33の刃先は直線として描かれているように、固定刃5や固定刃架台6の溝の湾曲はごくわずかであり、引用例1の第2図において表せる程度の湾曲にはならないと考えられる。

したがって、審決における、引用例発明に関する認定(審決書6頁12~20行)及び本願発明と引用例発明との一致点の認定(同7頁13~19行)に誤りはない。

2  取消事由2について

引用例発明は、上記のとおり、固定刃の刃先が全体として回転ロール2の表面から等距離にあり、らせん状にねじれたような関係に配置され、回転刃1と固定刃5の当たりが片端から他端へ連続して順次移行することから、固定刃全体を均等に使うことができるものであり、また、固定刃は多数に分割されていることから、製造が安価で部分的に交換ができるものと考えられるから、引用例発明も原告の主張する本願発明と同様の作用効果を奏するといえる。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例発明の誤認)について

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1~3の各記載事項の認定、本願発明と引用例発明との対比の一部(審決書5頁19行~6頁7行)は、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、審決が、本願発明と引用例発明との対比判断において、「引用例1のものにおける固定刃架台の溝は、らせん状受け面を形成しているといえ、各刃セグメントはらせん状受け面と特別の形状の棒との間に挟持されているといえる。・・・固定刃はロール母線に対し傾いた或る角度を持って並んでおり、その刃先が全体として回転ロールの表面から等距離にあるのであるから、その切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されているといえる。」(審決書6頁12~20行)と認定したことが誤りであると主張するので、以下検討する。

まず、引用例発明について、引用例1(甲第2号証)には、「固定刃5は、・・・固定刃架台6の前面6aにその長さ方向軸線に対し傾斜させて設けた溝6b内に嵌め込まれるものである。・・・4個ずつの同一形状の固定刃架台6、6……が、第2図に示すように、段違いに且つ各架台6の傾斜溝6bが一本の連続した溝になるように配置されるので、この連続した溝6b、6b……に収納された固定刃5は対置されている回転ロール2の母線に対し傾斜して配置されることになる。個々の架台6について見れば、固定刃5は固定刃押え7を介して六角ボルト8を締め付けることにより架台6の傾斜溝6bの中に固定される。・・・固定刃受台・・・はそれぞれの前端に異なる形状の架台取付部・・・を有し、これら取付部は同一形状の架台6を対向している回転ロール表面に対し異なる取付け高さ及び異なる取付け角度で取付ける形状に形成されている。」(甲第2号証3欄8~34行)、「固定刃架台6に設けられた溝は水平方向及び垂直方向に僅かに傾斜しているので溝に嵌められた固定刃5は回転刃1に対しねじられたようになり、回転刃1は固定刃5の片端から他端へ順次に当たりつつ移行する。・・・固定刃架台6の取りつけ角度の異なつた4種類の固定刃受台・・・を隣接させて・・・これら4個の架台の連続した溝内に収められた4本の固定刃5・・・は第2図に示す如くロール母線に対し傾いた或る角度をもつて並ぶと共にその刃先は全体として回転ロール2の表面から等距離にあるねじれたような関係に配置され、従つて回転刃1は、・・・固定刃架台6に嵌め込まれた固定刃5の片端から他端へと当たりが移行する。」(同4欄20行~5欄3行)、「本考案装置が従来の装置に比べて有利な点は固定刃5の取りつけを回転刃1に対して4枚1組にして或る角度をもつて配列してあるので回転刃1が固定刃5に当たる際の衝撃が小さく紙切れを著しく減少させると同時に高速運転を可能にする。」(同6欄1~6行)と記載されている。

これらの記載及び引用例の第1~第7図によれば、引用例発明では、固定刃5が、固定刃押え7により固定刃架台6の傾斜溝6bの中に固定され、形状の異なる固定刃受台ごとに同一形状の固定刃架台6が取り付けられ、各固定刃架台6に設けられる傾斜溝6bが一本の連続した溝になるように配置されるから、連続した溝6bに収納された固定刃5は回転ロール2の母線に対し傾斜して配置されるものであるが、固定刃5が回転ロール2に対して等距離になるように回転刃1に対しねじられた関係に配置され、かつ、各固定刃5と回転ロール2の接線との間の角度を同じにするために、固定刃5の水平方向及び垂直方向の傾斜は、同一ではなく、上記架台6の取付け高さ及び取付け角度を異なる態様で取り付けることにより、隣接する固定刃5が、その刃先においては連続しながら、ロール表面に対して等距離であって、しかも、一定の角度を有するよう順次所定の角度回転をしてねじられたような配置、すなわち、折れ線状に配置され、この結果、回転刃1は固定刃5の片端から他端へ順次当たりつつ移行するものと認められる。そして、回転刃1が複数の固定刃5の片端から他端へ順次当たりつつ移行するという構成によって、両者の刃先が衝突した際の衝撃を小さくするという作用効果を達成しているものと認められる。

他方、引用例1には、固定刃5の刃先が、回転刃1の刃先の描く回転円筒面に沿ってらせん状に曲げられた形状となることや、固定刃架台6の溝6bの下面が、湾曲形状の受け面を持つことに関しては、記載及び示唆が一切認められず、しかも、複数の固定刃架台を異なる取付け高さ及び取付け角度で取り付けながら、各架台6の溝6bが一本の連続した溝になるように配置した構成を示す引用例1の第2図でも、固定刃5の刃先は紙面前方を向いているにもかかわらず、隣接する溝6b及び固定刃5は完全な直線で描かれており、図面上湾曲の程度は認められない。

そうすると、引用例発明において、固定刃の刃先が、回転ロール2の表面から等距離にあるねじれたような関係に配置される構成とは、固定刃5が固定刃押え7により固定刃架台6の傾斜溝6bの中に固定され、各固定刃の刃先は直線状を保ったままで、複数の固定刃が回転ロールの軸線に対して傾斜し、回転刃1の刃先の描く回転円筒面に沿って、ロール表面に対してほぼ等距離になるように折れ線状に配置されているものと認められ、本願発明のように、刃セグメント33が支持ブロック25の受け面25Aと棒34との間に挟まれてらせん状に曲げられた構成でないことが明らかである。

被告は、引用例発明における、固定刃5の刃先の「ねじれたような関係」とは、固定刃の刃先が、回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿ってらせん状に曲げられた形状となることを意味し、また、固定刃架台6の固定刃が載置される傾斜溝6bの受け面及び固定刃押え7は、固定刃の刃先をらせん状にねじれたような関係に配置させる形状となっているものと考えられると主張する。

しかし、前示のとおり、引用例発明では、固定刃押え7により固定刃架台6の傾斜溝6bの中に固定される各固定刃の刃先が、直線状を保ちながら連続して、ロール表面に対してはほぼ等距離で回転円筒面に沿った折れ線状に配置されるものと認められ、回転刃1が固定刃5の片端から他端へ順次当たりつつ移行するという構成によって、両者の刃先が衝突した際の衝撃を小さくするという作用効果を達成しているものであり、各固定刃を湾曲させるという構成を採用することにより、刃先の衝突の際の衝撃を小さくするという作用効果を達成したものではないことが明らかである。しかも、固定刃の刃先が、回転刃の刃先の描く回転円筒面に沿ってらせん状に曲げられた形状となることや、固定刃架台の溝の下面が、湾曲形状の受け面を持つことは、仮にそのような構成を採用しているとすれば、当然、明細書の中で開示されるべき重要な構成であるにもかかわらず、引用例1には、この点に関する記載及び示唆が一切認められないから、被告の主張は到底採用することができない。

また、被告は、回転刃の刃先が描く円筒面に沿って固定刃の刃先をらせん状にすることが、本件周知例(乙第1号証)に示すように、連続したミシン目を形成するための当然の位置関係であると主張する。

たしかに、本件周知例には、単一の固定刃の使用を前提として、その固定刃の刃先を湾曲させることが開示されているものと認められる。しかしながら、本願発明は、その要旨に示すとおり、「真直ぐな切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されることを特徴とする」ものであり、このような本願発明における特徴的な構成が、前示のとおり、引用例発明に採用されていないならば、まず、そのことを相違点として明示した上で、従来の公知例や周知技術を考慮し、当該構成の有する進歩性ないし容易推考性を検討すべきものといわなければならない。このような相違点の認定を行うことなく、しかも、審決で示されていない公知例や周知技術を示して、当該構成の進歩性等を検討することは、到底許されることではないから、被告の主張を採用する余地はない。

したがって、審決が、引用例発明について、「引用例1のものにおける固定刃架台の溝は、らせん状受け面形成しているといえ、各刃セグメントはらせん状受け面と特別の形状の棒との間に挟持されているといえる。・・・固定刃はロール母線に対し傾いた或る角度を持って並んでおり、その刃先が全体として回転ロールの表面から等距離にあるのであるから、その切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されているといえる。」(審決書6頁12~20行)と認定したことは、誤りというほかない。

2  以上のとおり、審決は、引用例発明の認定を誤り、その結果、本願発明との一致点の認定をも誤ったものであり、このことが審決の結論に重大な影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由について検討するまでもなく、審決は取消しを免れない。

よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第21839号

審決

イタリア国 55100・ルッカ、ヴィア・ペル・ムグナノ(番地なし)

請求人 ファビオ・ペリニ・ソシエタ・ペル・アチオーニ

東京都港区西新橋1丁目1番15号 物産ビル別館 八木田・浜野・森田特許事務所

代理人弁理士 八木田茂

東京都港区西新橋1丁目1番15号 物産ビル別館 八木田・浜野・森田特許事務所

代理人弁理士 浜野孝雄

東京都港区西新橋1丁目1番15号 物産ビル別館 八木田・浜野・森田特許事務所

代理人弁理士 森田哲二

東京都港区西新橋1丁目1番15号 物産ビル別館 八木田・濱野・森田特許事務所

代理人弁理士 平井輝一

平成2年特許願第24587号「ウエブ状材料に横方向の孔線を形成する孔明け装置」拒絶査定に対する審判事件(平成2年9月14日出願公開、特開平 2-232197)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1 手続の経緯、本願発明の要旨

本願は平成2年2月5日(優先権主張1989年2月7日イタリア国)の出願であって、特許を受けようとする発明は、平成6年5月25日付け手続き補正書および平成7年5月15日付け手続き補正書により補正された明細書及び平成6年5月25日付手続き補正書により補正された図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1~10に記載された発明であるところ、その請求項1に記載された発明(以下本願発明という)は、次のとおりのものと認める。

「1.回転するローラ(17)を有し、このローラに沿って、孔明けすべきウエブ(C)が駆動され、前記ローラ(17)によって、前記ローラ(17)の回転軸線に平行に多くの周刃(17E)が支持され、可動ユニット(11)が前記ローラ(17)に接近して配置され、傾斜した刃手段が前記ユニット(11)によって前記回転ローラ(17)の前記刃(17E)と共働するように支持され、前記傾斜した刃手段はそれぞれ真直ぐな切刃を有する多くの相隣る刃セグメント(33)からなり、前記可動ユニット(11)上にはそれぞれ刃セグメント(33)を支持する多くの支持ブロック(25)が設けられた、トイレットペーパーなどのロールを製造する転換機械にウエブ状材料を送る際に、ウエブ状材料に横方向の孔線を形成する孔明け装置において、各ブロック(25)がらせん状受け面(25A)を有し、各刃セグメント(33)は前記らせん状受け面と特別の形状の棒(34)との間に挟持され、前記刃セグメント(33)は受け面(25A)と棒(34)との間に刃セグメント(33)の真直ぐな切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されることを特徴とする孔明け装置。」

2 引用例

これに対し、原査定の拒絶理由に引用した実公昭57-3760号公報(昭和57年1月23日出願公告、以下、引用例1という)には、

回転ロール(2)を有し、このロールに沿って、ミシン目を入れるべきティッシュペーパー、タオルペーパー等の薄葉紙(P)が駆動され、前記ロール(2)によって、前記ロール(2)の回転軸線に平行に1つの回転刃(1)が支持され、複数の固定刃受台(9)が前記ロール(2)に接近して配置され、傾斜した刃手段が前記固定刃受台(9)によって前記回転ロール(2)の前記刃(1)と共働するように支持され、前記傾斜した刃手段はそれぞれ真直ぐな切刃を有する多くの相隣る固定刃(5、5、5、5)からなり、前記複数の固定刃受台(9)の各々にはそれぞれ固定刃(5)を支持する固定刃架台(6)が設けられた、ティッシュペーパーなどのロールを製造する装置すなわち転換機械に薄葉状材料を送る際に、薄葉状材料に横方向のミシン目を形成するミシン目打込装置において、各固定刃架台(6)が傾斜溝(6b)を有し、各刃セグメント(5)は前記傾斜溝と固定刃押え(7)との間に挟持されることを特徴とするミシン目打込み装置、

が記載されている。

また、同引用公報第1欄第33行から第2欄第2行には、

「以て前記数種類の固定刃受台9、9’・・・を隣接配置したときはそれらに支持された前記複数個の架台6、6、・・・の溝6bが回転ロールの母線に対し傾斜した角度を以て連続するようにし、且つ連続した前記溝内に固定刃5をその刃先が全体として回転ロールの表面に対しほぼ等距離になるように配置することを特徴とする固定刃取付け装置」と記載(以下記載Aという)され、

同引用公報第4欄第35行から40行には、「これら4個の架台の連続した溝内に修められた4本の固定刃5、5、5、5は第2図に示す如くロール母線に対し傾いた或る角度を持って並ぶと共にその刃先は全体として回転ロール2の表面から等距離にあるねじれたような関係に配置され、」と記載(以下記載Bという。)されている。

3 対比

本願発明と引用例1に記載のものと対比すると、引用例1に記載のものにおける、回転ロールは本願発明のローラに相当し、以下同様に、ミシン目打込みは孔明けに、ティッシュペーパー、タオルペーパー等の続葉体はウエブに、回転刃は周刃に、固定刃受台は可動ユニットに、固定刃は刃セグメントに、固定刃架台(6)は支持ブロックに、固定刃押え(7)は特別の形状の棒(34)にそれぞれ相当する。

また、記載Aによれば、数個の架台の溝が回転ロールの母線に対して傾斜した角度を持って連続しており、該溝に配置した固定刃の刃先が全体として回転ロールの表面に対してほぼ等距離になるのであるから、引用例1のものにおける固定刃架台の溝は、らせん状受け面形成しているといえ、各刃セグメントはらせん状受け面と特別の形状の棒との間に挟持されているといえる。さらに、記載A、Bによれば、固定刃はロール母線に対し傾いた或る角度を持って並んでおり、その刃先が全体として回転ロールの表面から等距離にあるのであるから、その切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されているといえる。

してみれば、両者は、「回転するローラを有し、このローラに沿って、孔明けすべきウエブが駆動され、前記ローラによって、前記ローラの回転軸線に平行に周刃が支持され、可動ユニットが前記ローラに接近して配置され、傾斜した刃手段が前記ユニットによって前記回転ローラの前記刃と共働するように支持され、前記傾斜した刃手段はそれぞれ真直ぐな切刃を有する多くの相隣る刃セグメントからなり、前記可動ユニット上にはそれぞれ刃セグメントを支持する支持ブロックが設けられた、トイレットペーパーなどのロールを製造する転換機械にウエブ状材料を送る際に、ウエブ状材料に横方向の孔線を形成する孔明け装置において、各ブロックがらせん状受け面を有し、各刃セグメントは前記らせん状受け面と特別の形状の棒との間に挟持され、前記刃セグメントは受け面と棒との間に刃セグメントの真直ぐな切刃が曲げられてらせん状になるように挟持されることを特徴とする孔明け装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点 1

本願発明においては、1つの可動ユニットに多くの支持ブロックが設けられているのに対して、引用例1に記載のものにおいては、複数個の可動ユニットに各々1つの支持ブロックを設けた点。

相違点 2

本願発明においては、多くの周刃がローラに設けられているのに対して、引用例1に記載のものにおいては1つの周刃がローラに設けられている点

4 当審の判断

そこで、これらの相違点について検討する。

相違点1について

1つの可動ユニットに多くの支持ブロックを設け、刃セグメントを回転ロールから退避させるに当たり、1つの操作部材(シリンダピストン装置)の操作によりすべての刃セグメントの退避動作を行わせるか、複数の可動ユニットのそれぞれに操作部材を設け、所望の操作部材(エアーシリンダ)を作動させることにより所望の刃セグメントの退避動作を行わせるようにするかは、当業者においては、必要に応じて適宜採用できる設計的事項にすぎず、その効果も当業者の予測しうる程度のものであって格別のものとも認められない。

相違点2について

回転するローラに設けられた刃とこれに接近して配置された固定刃によりミシン目などの孔を明ける孔明け装置において、回転するローラの回転軸線に平行に多くの周刃を設けることは、原審の拒絶の理由において提示された実公昭50-2629号公報(昭和50年1月23日出願公告、以下引用例2という)、特開昭49-127290号公報(昭和49年12月5日出願公開、以下引用例3という)に記載されている。そして、本願発明においてもこのような構成を採用することに格別困難があったとも認められない。

5 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、本願出願前日本国内において頒布されたことが明かな引用例1、2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年12月20日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人被請求人 のため出願期間として90日を附加する。

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